PoCで終わらないAI開発|Vertex AIによる MLOps実践ガイド2025
こんな方におすすめの記事
- 社内にAI開発のノウハウや人材が不足している
- PoC(概念実証)までは進められるが、本番運用への移行でつまずいている
- 外部ベンダーに頼らず、自社で運用できる体制を作りたい
- クラウド上で完結するAIプラットフォームを探している
機械学習(ML)プロジェクトを成功させるには、モデルを開発するだけでは十分ではありません。
データ準備、トレーニング、評価、デプロイ、そして継続的なモニタリングといったライフサイクル全体を効率的に管理することが不可欠です。
本記事では、Vertex AIが提供する主要な機能を機械学習ワークフローの段階ごとにご紹介し、開発から運用までをどのようにスムーズに繋げられるかを解説します。
AIプロジェクトがPoCで止まりやすい理由
多くの企業がAI導入を進める中で、PoCの段階で諦めてしまうケースが少なくありません。よくある課題は以下の通りです。
- データ準備・管理の手間が膨大
- 高度なML人材が不足し、開発が属人化している
- モデルを継続的に改善する仕組みがない
- PoC環境と本番環境が分断しており、移行が困難
これらの課題を解決するために有効なのが、Vertex AIを活用した統合AIプラットフォームの構築です。
Vertex AIとは?
Google Cloudが提供する Vertex AI は、複雑なMLワークフロー全体を一貫して支援する統合プラットフォームです。
データエンジニアリング、データサイエンス、MLエンジニアリングの作業をひとつの環境に統合し、チームが共通のツールでコラボレーションできるようにします。
また、Google Cloudの強力なインフラを活用してアプリケーションを大規模に展開することも可能です。
Vertex AIが支援するMLワークフロー
1. データ準備:MLモデルの基盤を築く
MLモデルの品質はデータの品質に大きく左右されます。
Vertex AIはデータ準備の段階で以下の機能を提供します。
Vertex AI Datasets
- 多様なデータ対応:画像、表形式、テキスト、動画など、あらゆるデータタイプを一元管理
- 自動データ分割:トレーニング、検証、テストセットへの自動分割で、手動作業を削減
- 再現性の確保:MLOpsワークフローの最初のステップを標準化し、実験の再現性を担保
大規模データ処理の最適化
大規模なデータセットを扱う機械学習プロジェクトでは、効率的なデータ処理が不可欠です。
- BigQuery:Google Cloudの大規模データウェアハウス
Vertex AIと連携し、大規模データの分析とモデルトレーニングを迅速に処理するのに最適な環境を提供 - BigQuery ML:SQLクエリを使って直接モデルをトレーニングしたり、予測を実行したりすることも可能
BigQueryとFeature Storeの連携
- 統一データアクセス:BigQueryをオフラインストアとして活用し、一貫した特徴量データに簡単にアクセス
- 柔軟なサービング:リアルタイム予測用のオンラインサービングと、バッチ処理用のオフラインサービングの両方に対応
- チーム間の効率化:複数のチームが同じ特徴量を重複して開発する無駄を解消
Vertex AI Workbench
- 統合開発環境:JupyterLabベースの環境で、データ探索からモデル開発まで一括実行
- シームレスな連携:BigQueryやCloud Storageとネイティブ統合により、データアクセスが簡単
- 自動化支援:ノートブックのスケジュール実行機能で、継続的なトレーニングジョブを自動化
2. モデルトレーニング:最適なモデルを構築する
データが整ったらモデルのトレーニングに進みます。
Vertex AIは、ユーザーのスキルレベルやプロジェクトの要件に応じて、柔軟な選択肢を提供します。
AutoML vs. カスタムトレーニング:スキルレベルに応じた選択
| 比較項目 | AutoML | カスタムトレーニング |
| 必要スキル | プログラミング不要(GUI操作のみ) | Python、ML フレームワークの知識が必要 |
| 開発速度 | 数時間〜1日で完了 | 数日〜数週間 |
| カスタマイズ性 | 制限あり(事前定義された設定のみ) | 完全自由(独自アルゴリズム、損失関数も実装可能) |
| 適用場面 | PoC、迅速な検証、非専門家による開発 | 本格運用、独自要件、研究開発 |
| 対応フレームワーク | Google独自の最適化済み環境 | TensorFlow、PyTorch、scikit-learn、XGBoost等 |
プロジェクト成長に合わせた柔軟な移行
Vertex AIの大きな強みは、同一プラットフォーム内でAutoMLからカスタムトレーニングへのスムーズな移行が可能な点です
- PoC段階: AutoMLで迅速にモデルの実現可能性を検証
- 開発段階: 同じデータセットを使用してカスタムトレーニングに移行
- 運用段階: 高度な最適化と独自要件への対応
高度なトレーニング支援機能
- ハイパーパラメータ自動調整:数百の組み合わせを自動で試行し、最適なパラメータを発見
- 分散トレーニング:大規模モデルを複数のGPUやTPUで並列処理し、学習時間を大幅に短縮
- 実験管理:Vertex AI Experimentsで、異なる手法やパラメータでの実験結果を自動記録・比較
3. モデル評価と改善:継続的な精度向上
モデル開発において、「作って終わり」ではなく、継続的な評価と改善が重要です。
Vertex AIは包括的な評価ツールを提供します。
Vertex AI Model Evaluation:客観的な性能評価
- 多様な評価指標:分類タスクでは適合率・再現率、回帰タスクでは平均絶対誤差(MAE)など、タスクに最適な指標を自動選択
- 継続的評価:デプロイ後も新しいデータで定期的に性能を評価し、劣化を早期に検知
- モデル比較:複数のアプローチで開発したモデルの性能を公正に比較し、最適解を客観的に選択
Vertex AI Explainable AI (XAI):AIの「ブラックボックス」を解消する透明性ツール
- 特徴量重要度の可視化:どの入力データが予測に最も影響したかを数値とグラフで表示
- 予測根拠の説明:「なぜこの判定になったのか」をビジネスユーザーにも分かりやすく説明
- バイアス検出:不公平な判定を行っていないかを客観的に検証
4. モデル提供(サービング):本番環境での活用
完成したモデルを実際のアプリケーションで利用するためにデプロイします。
用途に応じた最適な提供方法の選択:
| 比較項目 | オンライン予測 | バッチ予測 |
|---|---|---|
| 応答速度 | ミリ秒単位のリアルタイム応答 | 数分〜数時間での一括処理 |
| データ処理量 | 1回のリクエストで少量データ | 大量データの一括処理 |
| コスト構造 | 常時稼働のため固定費が発生 | 処理時のみの従量課金で経済的 |
| 適用例 | ECサイトのリアルタイム商品推薦、不正取引の即座検知 | 月次売上予測、大量画像の一括分類 |
| 技術的特徴 | REST API経由でアプリと直接連携 | Cloud Storage等から大量データを読み込み |
本番運用を支えるエンタープライズ機能:
Vertex AI Endpoints
- A/Bテスト:新旧モデル間でトラフィックを分割し、段階的な移行を実現
- オートスケーリング:アクセス量に応じた自動スケール調整で、コスト最適化と安定性を両立
- 複数モデル管理:1つのエンドポイントで複数バージョンのモデルを管理
Vertex AI Model Registry
- バージョン管理:モデルの変更履歴を完全追跡
- 承認ワークフロー:本番デプロイ前の品質チェック工程を標準化
- ロールバック機能:問題発生時の迅速な旧バージョン復旧
5. モデルモニタリング:長期的な性能維持
「作って終わり」ではなく、継続的な性能維持がAIシステム成功の鍵です。
モデル性能劣化の早期発見
実運用では、以下の理由でモデル性能が徐々に低下します:
- トレーニング・サービングスキュー:開発時と本番環境のデータ特性の違い
- データドリフト:ユーザー行動の変化や外部環境の変化による入力データの性質の変化
- 概念ドリフト:予測対象自体の性質が時間とともに変化
Vertex AI Model Monitoring:自動化された性能監視
- 統計的異常検知:TensorFlow Data Validation(TFDV)を使用し、データ分布の変化を数学的に検出
- アラート機能:設定した閾値を超えた際の自動通知により、人手による常時監視を不要に
- 再トレーニングトリガー:性能劣化検知をきっかけとした自動再学習パイプラインとの連携
開発から運用までを加速する統合ツール
Vertex AIはワークフロー支援に加え、以下のツール群で「開発から運用までの一連の流れ」を効率化します。
Vertex AI Pipelines:開発から運用までの完全自動化
- エンドツーエンドの自動化:データ準備→特徴量生成→モデル訓練→評価→デプロイ→監視の全工程を自動実行
- 再現性の確保:同じパイプラインを実行すれば、常に同じ結果を得られる環境を構築
- CI/CD/CT対応:コード変更時の自動テスト、継続的デプロイ、継続的トレーニングを実現
AIプロジェクトを加速する統合ツール群
- Vertex AI Studio:生成AI(Geminiなど)のプロンプトを直感的にテスト・比較・調整
- Model Garden:Google製およびオープンソースの100以上の事前訓練モデルをワンクリックで利用開始
- Vertex AI Agent Builder:コードを書かずにチャットボットや検索システムを構築
- エンタープライズセキュリティ:IAMによる細かな権限制御、暗号化、ネットワーク分離など、企業レベルのセキュリティを標準装備
まとめ
Vertex AI は、データ準備から学習・評価・提供・モニタリングまで、MLプロジェクトのあらゆる段階で必要な機能を統合的に提供します。
- AI人材不足の解決:ノーコード/ローコードから本格開発まで、スキルレベルに応じた活用が可能
- PoCから本番への橋渡し:同一環境での段階的なスケールアップを実現
- 長期的な運用体制:自動化されたモニタリングと改善サイクルで、継続的な価値創出を支援
「自社でAIを本格導入したいが、どう進めればいいかわからない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
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